「・・・く・・・ん、うぅん?」 緩やかな頭痛と共に、意識が回復する。最悪の目覚めだと少年ことランは思った。 「痛ててて・・・ここ・・・何処だ?」 痛む身体を無理やり起こし、辺りを見回す。 寝ている、ログベッドの横に、大きな窓。観音開きのクローゼット、そして大量の書物が占拠した巨大な机。 それ以外何もない、唯のログハウスの一角。 「てか・・・俺は一体何してんだ?」 ランは今までの経緯を思い出す ――序章 回想中―― ……… …… … ――回想 終了―― 「あぁ、浜辺に打ち上げられて、そのままぶっ倒れて・・・それで何があった?」 ランはこめかみに指を当てながら、窓の外を見る。 そこには畑が広がっていて、お爺さんが必死に鍬を振っている。極めてのどかな景色が広がっていた。 「どっかの村、か・・・?」 丁度その時、部屋のドアが開いた。 入ってきたのは、金髪の少女だった。 「あ、どう――」 言い終わる前に、その少女が、知らない言葉をドアの向こうに叫び始めた。 「d!じゃskd!ファhフェらзΤ!!さfさkfdふぁえらs*нορ∩)だs!!!」 「え、あのぉ、えぇと・・・なんだ?」 ランがその何ともいえない、とりあえず聞いたことのない言語を叫ぶ少女を見て、困惑する。 ドタドタと、騒がしい音を立てて、二人の男女が入ってきた。 灰色の髪とスカイブルーをした瞳の、浜辺で見た男 少女と同じウェーブのかかった金髪に、緑色の瞳の女性 ランは直感的に夫婦だろうと思った。まぁ間違いではないのだが、 「あ、アンタ・・・浜辺で見た・・・助けてくれたんだ。ありがとうって、解らねぇか」 感謝の念を述べたのは良かったが、それが伝わらないことに気付くと、ランは苦笑いを浮かべながらベッドから降りようとした。 しかし、それを慌てて、先ほどの少女が止め、ランは渋々布団の中へと戻った。 「もう、大丈夫なんだけどなぁ」 それから、しばらく夫婦らしき二人は、娘らしきさっきの少女に何かを命ずると、ずっと話し込んでいた。内容はさっぱり理解できないが、ランは適当に聞きながら窓の外を眺めていた。先ほどの爺さんはどこかへ行ってしまい、畑は無人となり、奇怪な葉っぱをした作物だけが取り残されていた。そんなやはりのどかな景色を眺めながら、ボーっとしていると。 目の前に透き通るほど白くて、それで折れそうなくらい細い腕が現れた。 腕の先を見ると先ほどの少女が心配そうな顔でランの顔を見ていた。 手には黄色と白のストライプの模様が入ったマグカップ。 言葉は分からなくとも飲めということぐらいは解った。 「あ、ありがとう」 ランは頭を下げると、マグカップを受け取り、何となく中身を見た。中には白く濁ったスポーツドリンクらしき液体が入っていた。 ランはそのカップに口をつけ一気に飲み干した。 が、中身はスポーツドリンクなんかではなかった。 独特の青臭さと苦味を誇る、健康飲料として通販でよく売っている 青汁の味だった。 「グェエエエエエエッ!マジィイイイイッ!!!」 当然の反応をランは起こした。中にはこの苦さを美味いと言う人もいるが、ランは不味いという人だった。 「な・・・何だよ、コレェエエ!色はポカリだったじゃねぇか!なのに何で味は青汁!?意味分からねぇよ、何故ここで引っ掛ける!俺はイタズラカメラのターゲットか!!?」 ランは一人絶叫していると、少女はクスクス笑っていた。 「何が可笑しいんだよぉ!」 「ご、ごめんなさい・・・だって、可笑しかったから・・・フフッ・・・」 「何が可笑しい!ていうか、これ飲ませたのお前だろ!?何ゆえ俺を騙す?何かのイジメかよ!」 「君、言葉が分かるか?」 「分かるに決まってる・・・って、あれ?何で通じてるの?」 自分でも間抜けな声を出したと思うくらいに間抜けな声を上げた。 「君、此処までどうやって来たか覚えているか?」 「え?いや、わ、わかりません?」 「では、此処が何処だか分かるか?」 「わかりません」 「“ラオデキア”という星に聞き覚えは?」 「ありません・・・てか、顔が近いんだけど」 顔に鼻面が当たりそうなくらい近づく男に一言告げると 「む」 と直ぐに引いてくれた。 「すまん。癖なんだ」 どんな癖だよと思いながらランは溜め息を一つ吐く。 (何なんだ?この人。さっきから訳分かんない事ばっか言って・・・) 「それで、此処は何処なんだ?見た感じ日本じゃないけど・・・ていうか、何で日本語喋れたのに、最初から喋ってくれないの?」 「ニホンゴ?・・・あぁ、翻訳液(ライド)のせいか・・・君が今喋っているのは、そのニホンゴと言う物ではないぞ」 再び訳の分からないことを言われて、ランは更に首を傾げる羽目になった。 「何だ、ライドって?」 純然たる疑問だった。まず、さっきからこの男は何を言っているのか9割方理解できないでいるランに疑問が尽きることは無いわけで、兎に角質問をする。 答えは早かったが、やはりランの理解できるような事ではなかった。 何と答えたかというと 「ライドは、翻訳液の意だ。どんな言語でも訳せるようになる便利な液体だ」 「ド●えもんか!何だそれ。んな便利な物がこの世にあったら誰も英語等勉強せんわボケ!」 無駄に訳の分からないことを言う彼に対して、そんな便利な物がこの世に有ったら、今まで16年間やってきた英語に関する知識を全否定されたような物なので、只管突っ込みに徹する。 対して、相手のほうはランの言っている事の方が分からないといった顔になった。 「ドラ●もん?何だそれは?新手の兵器化何かか?・・・いや、それより君がそう思うのも無理はないが・・・君、おそらく此処は君の知る世界ではないぞ」 ドラえ●もんを知らないのか!?というツッコミを飲み込み、ランは一言だけ声を上げた。 「は?」 無理もないだろう。皆さんはイキナリ此処が自分の知る世界ではありませんと言われて、信じることが出来るだろうか?出来たらそれは人生に病んでいるとしか言えない。 「いやいや、それは何の冗談だ?もう、俺がさっきから訳の分からない事に巻き込まれているのは、重々承知のつもりだが、俺の知る世界ではないって・・・もしかして、異世界とか言う落ち?」 ランは苦笑いを浮かべながら問う。 「そういう事になるのだろう」 ランは周りに重々しい空気を呼び出した。その名は鬱。 もう、相手が電波だろうがなんだろうが、自分が異世界へ来ていると言われれば、鬱にでもなる。そして、約60秒の鬱々モードの口から、言葉を搾り出す。 「・・・何か、此処が異世界だと証明できるようなことは?・・・例えば魔法が使えたり、超能力が使えたりとか・・・」 ランの一言に男は首を傾げ、こんな事か?と言って右手を翳す。 右手の中指に嵌めた金の指環が輝き始め 「――。――・・・――・・・。」 口元で何か小さく呟くと、右手に巨大な銃が出現する。 「うわッ!?どっから出したそんな物!」 男は無言で銃口を窓に向ける。 「おいっ!」 そして引き金を引くと パンッ!! 射出された銃弾は迷い無く窓ガラスへと向っていくが、窓には当たらず、表現するとすれば、空間を突き破った。 ランが空間を突き破ったと言う表現が出来るかどうかは分からない。しかしランにも、異変くらいは分かる。銃弾の通った所に、緑色の亀裂が入っていれば誰でも分かること。 「な・・・・・・ッ!!」 絶句という言葉が頭に浮かぶ。男は何の事も無い、と言った表情で突き破った空間に手を差し伸べる。 亀裂の入った空中に手を突き入れると、あろう事か男の頭上にも亀裂が入り、そこから突き伸ばされた手が現れる。 「こういう事を、君の世界では魔法などと称されるのかね?」 正しく、魔法と証するには十分・・・否、十二分だった。 この現象を、ランは一言で纏められるのなら・・・必ず、漫画の最初に書いてあるあの言葉だろうと思ったが、自分の体験していることをその言葉で表現できたら、それは人生に病んでいるとしか言えない。 ならば、何と言って良いのか・・・ランは、脳裏に浮かぶその言葉を発した 「マジかよ・・・」 ○=目次へ |