プロローグ 孤独からの生還



人は皆、最初は独りだ。
孤独。
言葉は残酷だ。
一言で相手を傷つけることもあれば、その一言で人を殺すこともある。
孤独。
その言葉は人を殺せる。
孤独死という言葉があるように、人は孤独で死ぬ。
意味は違えど、人は孤独で死ぬ。
だから、人は、気兼ねなく、気の置けないもう一人の自分を探す。
孤独を忘れるため、孤独から離れるため。
俺も、孤独から逃げ出したかった。しかし、時は遅かった。
俺は、孤独と言う、神の与えた死で、殺されたのだ。
あぁ、人の死とは、何と冷たいものか。
何時か、俺の魂が、誰かに乗り移る、転生、どんな形でもいい、誰かの前に現れることが赦されるならば、
もう一度だけ、俺に孤独から逃げられるチャンスを……
もう一度だけ、俺にチャンスを……
チャンスを、もう一度だけ……
下さい。

チャンスが欲しいか?
ならばくれてやろう。
それが神の意向と違えど、私には関係がない。
己が運命。見事変えて見せよ!!

消え行く俺の意識がその言葉により引き戻された。俺にもう一度のチャンスが与えられたのだ。
俺の運命の歯車は動き出す。
どんな形と言えど、俺は再び、この世界に生を受けた。
どういう訳か、体がいつもより軽い。足は在るから幽霊ではない。
しかし、頭痛がする。俺はこめかみを押さえながら辺りを確認した。
場所は、俺の部屋。
そこら中にビールの空き缶が転がっている。
死んだ時のまま、いや、死ぬ直前か?
時間を確認すると、6月22日午前10時28分。
俺が死んだのは10時38分。死ぬ十分前だ。
俺の死因は何だったか?自分の死んだ時間は覚えているくせに、死因は覚えていないとは…なんと言う都合のよさか…
まぁ、自分の死因なんて興味がない。
俺は今生き返っているのだから…しかし、このままいたら死んでしまうのではないだろうか?俺は、そう思うや否や、部屋の外に飛び出した。

部屋から飛び出し、俺の住んでいるアパート下のコンビニまで行ったところで、俺の死亡時刻は過ぎた。もう安全だ。そう思い、家に戻る。
家の中は10分前と同じ状況。しかし、部屋の中央に置いてあるテーブルの上に、封筒が置いてあった。
俺の死ぬ前には無かったものだ。というか、何故俺は自分が生き返ったことにこんなにも冷静にいられるのだろうか?
もともと、そういうことに関して疎い俺だ。特に考える必要もなければ、悩む必要もないのだろう。
俺はテーブルに乗っかる手紙を掴み封を開けた。
死ぬ前に無かったものがあったのだ。とりあえずは開けてみる。
封筒の中身は折りたたんだレポート用紙が一枚。
内容は、こうだ。
『コレを読んでいる。すなわち君は6月22日10時38分57秒の死亡時刻から逃れているはずだ。
コレで君は完全にこの世界に生き返った。
しかし、生き返るにはリスクが生じる。当たり前だろう。
君は今まで関わってきた人たちとの縁が完全に絶たれている。
つまり、親にも友人にも近所の人たちのも完全に忘れられている。
こんな人が居たな。という程度にしか認識はされないであろう。
それが君に架せられたリスクの一つだ。
もう一つ。君は1年後の6月22日10時38分57秒までに、“孤独”と言う物を捨てなければいけない。
本当に気が置けないような人を見つけなくては、君は一年後、全く同じ状況で死ぬ。
それがもう一つのリスクだ。

君には時間はない。急ぐことだ。
猶予は無いが、今の君はやり直したいと強く願っている。ならば、君は“孤独”という運命を打ち破ることが出来るだろう。
健闘を祈る。』

普段の俺ならば、その文章をまともに受け取ることは出来なかった。
しかし、俺が今此処にいる時点で、死んだ俺は、そう。まともに受け取らなくてはならないのだ。
俺の猶予はあと一年なのだから……


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