無知


感情なんて 私には無いはずなのに
何故こんなにも胸の奥が熱いのだろう
感情の無い私には心も魂も無い
なのに何故胸が痛いのだろう?
何故瞳から雫が零れるのだろう?
この思いは 一体何なのであろう?

教えられる事など 私には全く無いはずなのに
何故彼は私の知らないことを知っているのだろう
何故彼は私の思いを語り
何故彼は自分が見てきた世界を語る
何故私は彼の言うこと全てを知らないのだろう?

恋も愛も 私には分からないはずなのに
何故こんなにも彼を欲するのだろう?
心の底から彼を欲している。
コレが恋なのか? 愛なのか?
しかし、私には辿り着く術すらない

心も魂も 私には無いはずなのに
何故こんなにも体が鼓動するのだろう
彼に一言言うだけだ
それだけ言うのに何故私は…
心も魂も 私には無いはずなのに

私には心が無い 彼に私は遂に言う
しかし彼はキョトンとして 笑った
私には理解できない 何故彼が笑ったのかが
心が無いから 魂が無いから 感情が無いから
だから理解できない

しかし 彼は言う

心の無い者など居るものか 魂の無い人など居ない 感情が無い人なんてありえない

君も同じだ 心があるから 魂があるから 感情があるから 君は愛おしい

君は無知なだけだ 心に触れていない 魂を感じていない 感情を理解しようとしない

だから君は自分を知らない

ただの無知

私は呆けた
私が無知?
私は俯く

多分それは 私が見つけたかった答えなのだ

私の思いを 説明する 簡単な言葉

無知

それは残酷で 暖かく 嬉しい 言葉

私の求めた言葉

私は無知

心に触れない 魂を感じない 感情を理解しようとしない

自分すらも知らない

それを説明する とても馬鹿馬鹿しいほどに 簡単な言葉

無知

だから知らないだけ 知ろうとしなかっただけ

だから今なら分かる

無知を知った今 無知ではない

私は理解する

私は彼を愛していた


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