‘其処’には少年が居た。 少年が見ている景色は白。 そこは、白かった。 いや、それは結論に過ぎない。 その頃の少年は産まれたばかりだったので、それが何の色なのかわからなかった。 でも、普通の人間が‘其処’に行ってもわからないだろう。 何の色も無かったのだから。 だが、普通の人間なら白だと思い込み、納得していただろう。 そんな感じだ。 だが‘其処’には何も無い。 上も下も右も左も。 其処は‘無’だった。 だが少年は普通の人間では無かった。 少年には‘其処’しか無く、‘其処’が少年の全てだったからだ。 だが少年は‘其処’ではなく、この世に生を受けた。 目が覚めたら‘其処’とは違う場所に居た。 その場所は色んな物が在った。 自分が寝ているベッド、少しゴワゴワしているが‘其処’よりはましだった。 少年は‘其処’をこの世界に比べて何も‘無い’と、感じた。 だから少年は‘其処’を[虚無の虚空]と名付けた。 自分だけはそう呼んだ。 少年は、普通の人とは何かが違っていた。 少年がこの世で目覚めて、一年が経った。 少年は気付いた。 自分が何かを消せる事を。 それは、その物体がまるで空気になったかのように無くなるのだ。 だが存在が消えるわけでは無かった。 ただそれだけだった。 ただそれだけだった筈なのに、少年は人々から差別を受けた。 少年を苦しませた、哀しませた。 少年は部屋で踞るようになった。 その時少年は‘其処’に居た。 自分で名付けたあの空間だった。 ‘其処’はやけに落ち着いた。 ‘其処’は自分を慰めるかのようにただ‘在った’。 無い筈なのに‘在った’。 ‘其処’は少年を傷付けなかった。 少年は目覚めた。 見慣れた色んな物が‘在る’あの部屋だった。 それからまた一年後。 少年はまた気付いた。 自分の力が強くなっていることに。 人々は、また差別をした。 少年は哀しんだ。 そして少年は‘其処’に居た。 それの繰り返しだった。 また一年がたった時、少年は気付いた。 この世界が自分を傷付けるのなら、この世界を、自分を傷付けない‘其処’と同じようにしてしまえば良いんだと。 その時部屋に拍手の音が聞こえた。 其所には男が立っていた。 普通の人間なら恐怖しかねない姿の男が。 その男は、言った。 “自分は魔族だ。”と だが、少年には関係無かった。 その男はこうも言った。 “私の名は、バロウ。人間からは、魔男爵なんかと呼ばれている。 君の想いは胸に響く。感動する。 是非とも私めに手伝いをさせてはくれませんかな。”と。 少年は了承した。 そして、手始めにバロウと一緒にその村を消した。 消滅させた。 消去した。 いずれ、全ての物をこうしてやると思いながら。 何時しか少年の下にはバロウを含め沢山の魔王級の物達が集まった。 自分の想いに同意してくれた物達。 何時しか少年は[キング]と呼ばれるようになった。 そして少年は、“終末の刻”と名乗り、全世界に戦線布告をした。 ―了― ○=目次へ |